本研究は、社会病理現象の一つである「自殺」について、主として老年期に着目し、その家族的背景を社会病理学的に検討したものである。対象は、新潟県内の高自殺率地域と低自殺率地域における自殺者とその家族である。結果は、以下の通りである。 1.自殺率の動向と地域性 都道府県別の自殺死亡率とその地域性について、老年期(60歳以上)の高自殺率地域は全国的にやや分散傾向がみられるものの、「人口の高齢化」・「過疎化」の顕著な地域をより多く含む東北と北陸、それに近畿、四国、九州の一部の地域にみられる。また、新潟県内でもその傾向がより顕著な「郡部」の地域に自殺率が高くなっている。 2.老年期の自殺とその家族的背景 自殺者の個人的属性では、70歳以上の後期高齢者の自殺が多いこと。また、死別・未婚等無配偶者の自殺が多いこと。さらに、自殺の原因は「病気・厭世・家族関係」等が主になっているが、家族からの援助・支援が十分であれば解決できる問題が多いこと。自殺者の家族的背景について、自殺者の多くは「多世代同居家族世帯」の中で「健康の喪失」、「役割の喪失」に直面し、かつ伝統的な家意識が強いこと。さらに、「同居志向」、「家族内における頑固さ」、「融通性・柔軟性の欠如」等による家族の病理的状況が自殺の大きな誘因となっていることが、低自殺率地域および一般老人に比べ顕著であった。 3.自殺の社会病理学的検討 社会病理現象を把握する方法((1)病理の発生条件、(2)病理の実相、(3)病理の結果現象)および問題意識の持ち方(家族の病理的状況の把握)、基本的に研究視角(予後論的な研究)を明確させることの必要性について検討した。
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