中国の大学設置・運動の基本形態は、中華人民共和国の建国直後に実施されたソ連モデルの「大学再編成」より出来上がった。それは、中央教育行政機関が一部の大学を設置・管轄する他、中央の他の行政機関および省政府が多数の大学を設置し、また大学運営の細部まで規制する方式を特色とするものであった。しかし近年、「現代化」実現のための改革の一環として、この建国以来のパタ-ンの脱却・超克が図られている。そうした動きには、(1)従来設置者として認められていなかった地方の市当局の他、企業・社会団体、華僑をはじめとする個人による大学設置の獎励、(2)節約により生じた剰余経費の次年度繰越使用や大学の自己資金の自由運用、(3)入学定員の枠外での企業委託による人材の養成など、多方面にわたる内容が含まれる。本研究では、これら現在進行中の改革の意義を徹底して解明するため、1950年代の改革にまで遡り、当時形成された原型との対比において、現在どのような変容状況にあるかについて実証的分析を行った。 まず、変容状況を法規の上から押えておくため、大学設置や運営に関連した法令や通達を広く収集、翻訳、分析、検討した。この成果は『中国高等教育関係法規(解訳と正文)』として刊行した。また、大学の設置・運営形態の原型が形成された建国初期の状況を解明するため、当時の新聞、雑誌、中国政府刊行物などに掲載された関連情報の収集、分析に努め、これに基づいて、「50年代初期中国における大学の再編成」をはじめとする後掲の数篇の論文を著した。さらに、近年の変容状況についても「文革後10年余の中国高等教育」などの論文において明らかにした。 以上の結果、従来わが国ではほとんど空白状態であった中国における大学の設置・運営の実態に関する情報をかなりの程度蓄積できた。
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