北部九州、福岡県、佐賀県、長崎県(本土及び離島)にはトウニン、ホウニン、ダイニン等と呼ばれるシャ-マン的職能者が分布する。本年度は長崎市、長崎県北松浦郡、同南松浦郡(五島)、壱岐、対馬、佐賀県松浦郡、福岡県久留米市等の約16名の職能者に面接調査を行い、彼らの信仰、ライフヒスリ-、祭神、宗教活動等について資料を収集した。職能者は男性の場合もあるが、60代をこえた女性がほとんどである。ライフヒストリ-を見ると病苦や夫との離別等の体験を経て、先輩職能者に導びかれて、「神がのりいる」という体験をし、修行に入ったものが多い。生まれつきの霊感による、又は家系の中に職能者が居た場合もある。祭神は神がかりの時に下ったもので、守護神である。稲荷神が多いが、仏教系の不動明王、観音、地蔵、弘法太子、竜王等を単独に、又は併せて祀る場合が多い。職能者の家系に代々受けつがれてきた神仏、全く独自な神仏をまつる。宗教活動は依頼者の病気や悩みに対して、神霊との直接的な交流により教えを受ける。そのかたちは、(1)言葉が口をついて出るもの、(2)霊感によるもの、(3)手等に神仏の力を受け、それで加持をする。(4)夢告によって知らせを受けるもの等がある。病気や不幸の原因を説く災因論としては(1)先祖の霊が助けを求めている(先祖のおすがり)(2)本来、神霊の祀ってあった所を犯したり、汚したりする(神さわり)死霊の場合(仏さわり)等の説明がされる。樹木霊のさわりを説く場合もある。(3)また、風といって、死者の祀られない霊や他人のうらみを受ける場合もある。それらに対して祓えや祈願といった活動を行うのが職能者の役割である。こうしたシャ-マン的職能者の信仰は地域の信仰、霊魂観に少なからず影響を与えている。
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