北部九州の福岡、佐賀、長崎県(本土及ぴ島嶼部)にはトウニン、ホウニン、ダイニン等と呼ばれるシャ-マン的職能者が分布する。本調査は長崎市、長崎県北松浦郡本土、壱岐、平戸、生日、五島列島、佐賀県東・西松浦郡、福岡県久留米市、大川市、田川市等で約40名近い職能者に面接し、彼等のライフヒストリ-、信仰、祭神、宗教活動、病因論等について資料を収集したものである。60代を超えた女性が多いのが、(80%)、男性もあり、ライフヒストリ-を見ると病苦や人生苦の後、神ががり体験をして巫業に入った者も多いが、巫病による召命体験あるいは家系のある者に必ず神が降りるということで巫業に入ったという「血脈相承型」の者も予想外に多かった。自宅に神仏を祭る巫堂を持つが、祭神には稲荷を中心にした神道系のもの(血脈相承型、島嶼部に多い)と稲荷に不動や弘法太子等の密教系の諸神仏等を加えたもの(師資相承型、都市部に多い)の大きく二類型がある。宗教活動は依頼者が「おたずね」をすると神霊との直接交流によって教えを授ける。直接交流の方法は(1)コ-ハクにあがる、(神霊の言葉が口をついて出る)(2)霊感(胸に知らせがある。(3)目に見せられる。(遠いものの姿が見える。)(4)手に神霊の力をいただく、等の形がある。病気治療を行うが、病因論として、「カゼがつく」ということがある。カゼには生霊風と死霊風の二種があり、前者は他人の恨み、後者は浮遊する死者の霊魂であるという。また「野狐つき」といって、野狐(狐に近い小動物)が人間について精神異常をおこすということが信じられており、それらを落とすための祈祷を行う。また人に祭られていない神仏や先祖の崇りを説くことが多い。「サハリ」といい、その場合は神仏や先祖の言い分を聞き、(神霊との直接交流を本分とするシャ-マン的職能者の本領がここに発揮される)、それに対して「オユトワケ」というおわびの言葉をのべる。
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