本年度は、世界恐慌の影響がジャワ農村へ波及するメカニズムの解明に主眼をおいて研究を進めてきた。一般的には恐慌によるインドネシア経済の落ち込みは30年代初に急激に始まり、30年代後半から徐々に回復に向うが、その最大の規定要因である輸出産業としてのヨ-ロッパ資本農企業の動向から見ると、産物により生産・輸出減少の規模や時期、これに対する植民地政庁の対策、住民経済とのかかわり方に大きな差があり、その影響を一様に論じることはできない。中、東ジャワで展開した糖業の場合には、チャドボ-ン協定受入れによる32年以降の急激な生産縮小が、土地貸出料、労賃収入の大幅巾減少という形で住民経済に深刻な影響を与え、30年代後半期にも状況は好転しなかった。ほぼ西ジャワのみで展開した茶業の場合は、33年以降二次にわたる生産制御にもかかわらず、生産減少は30、33、34、37年のみで、全体的に減少量は大きくない。農園数、収穫面積はむしろ上昇傾向にある。また、生産量の20%程度は住民栽培者からの買上げである。タバコはブスキ、バニュ-マスに農園が集中しているが、栽培面積は32年に大きく減った後あまり変化していない。ただ生産量は農民からの買上げ量の減少により変化がかなり激しい。この場合、借地料と買上げ額の減少が農民経済への影響の主要なチャンネルである。地方、コ-ヒ-、ゴムなどは各年の収穫量の変動は大きいが、収穫面積はあまり変化しておらず、また、これらは荒蕪地で展開されるため住民経済との接点は専ら労賃の上下である。以上の諸要素を考慮に入れ、とりあえず糖業型、糖業・タバコ型、糖業・米型、糖業・カッサバ型、非プランテ-ション型の地域類型を設定したが、更に住民農業、土地所有権の差などの要素も加味した総合的地域類型設定作業を現在進めており、これにより恐慌の影響を地域毎に検討する準備を行なっている。なお並行して農民負債問題の検討も進めつつある。
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