「新唐書」は「旧唐書」と共に、中国唐代の歴史を記す「正史」であり、その「食貨志」は唐代の社会経済史、財政史などを研究するための基本的な編纂史料である。本研究は、「新唐書食貨志」(「以下、「新書貨志」と略称)全5巻の記事が、いかなる原史料に基づいて書かれているかを、逐条的に調査してその史料源を究明する一方、現存史料では直接の史料源が不明な記事については、周辺の史実を検討するこによって、その記事の真偽を可能な限り明らかにしようとするものである。 本年度は当初の計画に従って、「新食貨志」第2巻までの記事の分析を行った。当該部分は唐王朝の中央財政に関する総括的事項についての記事によって構成させていいるが、本年度の検討によって、これらの大多数の記事の典拠史料を明らかにすることができた。しかし「先是、揚州租調以銭、嶺南以米、案南以絲、益州以羅綾絹、供治綵」、「凶年楽輸布絹者従え」、「呉塩・蜀麻、銅治皆有税」(以上、第1巻)など、税制に関する重要記事について、今のところ他に関連史料を見出し得ず、これらをいかに解釈するか問題点として残されている。また最近、我が国に入っ譚英華著「両唐書食貨志校読記」(四川大学出版社、1988年12月)は、「新食貨志」についても相当評価な分析を行っており、本研究はこの譚氏著の成果を批判的に摂取する必要がある。 なお以前から進めている本研究の準備作業として、本年度は第4巻の塩法の記事について下調べを行った。さらに本研究に関連して、近刊の「中国史籍解題辞典」で、随唐五代の史籍77点の解題を分担執筆し、また唐代後期の財政官僚の実態の一端を明らかにした論文を作成し、近日中に公刊する予定となっている。
|