研究概要 |
本研究は中国唐代の社会経済史,財政史などを研究するための基本的な編纂史料の一つである『新唐書』食貨志(以下,『新食貨志』と略称)の記事が、いかなる原史料に基づいて書かれているかを,逐条的に調査してその史料源を究明する一方,現存史料では直接の史料源が不明の記事については、可能な限り周辺の史実を検討することによって,その記事の真偽を明らかにしようとするものである。 この目的に応じて、本研究では『新食貨志』全5巻の記事について検討を加え、その大部分の記事の典拠史料,或いは関連する参考史料を究明することができた。これによって、多くの場合,原史料を大幅に省略し、且つ書き変えが行われている『新食貨志』の記事の内容を,正確に解釈する基礎がつくられることとなった。その成果として,研究成果報告書には『新食貨志』巻1,巻2の記事の分析結果を収録した。全5巻のうち、とりあえずこの2巻に限定したのは,報告書作成費用の制約にもよるが,ことにこの両巻が『新食貨志』全体の総論の性格をもっており、伝統的分類によれば,田制、賦役制、戸籍制、国用・国計など,社会経済史,財政史などの中心的課題に関する唐一代の総括的記述であることにもよる。これらの記事の検討によって,『新食貨志』には、従来知られていなかった幾つかの貴重な唐令の取意文が含まれていること,『新食貨志』にのみ伝えられている史実が存すること,また不注意に誤って書き変えられた記事や,明らかに編纂者によって捏造されたものも若干存在することなどを指摘し,総じて『新食貨志』の訳注を行うための基礎を提供することができた。 今回の報告書には、遺憾ながら巻3以下の各論に相当する記事についての分析結果を収めることができなかったが,今後さらに検討を継続し、その成果を逐次公表していく予定である。
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