本研究は、私が1988年、中国の河北・山西地方で元代石刻史料の実地調査を行った経験から取り組むことになった。中国の近代化にともない石碑類は急速に失われつつあるが、その歴史史料としての価値は大きく、早急な調査が必要である。しかし、県レヴェルの文物を管理する文物管理所の設備予算は貧弱で、管轄地方に過去にどのような石碑が存在し、現存しているものは、どれかについて十分把握しているわけではなかった。そこで本研究では実地調査を効率よく行うために『中国方志叢書』の大量の地方志を中心的に利用し、そこに収められている元代石刻史料に関する文献的情報を県別に収集整理することをめざした。平成元年度は、東洋文庫を中心に調査し、1988年の実地調査で筆写して帰った51の元代石刻史料が、従来利用可能な文献史料の中にはない新史料であることを確認した。平成二年度は、北京で、北京図書館蔵の拓本について調査した。そして、1990年出版の『北京図書館蔵中国歴代石刻拓本涯編』元代部分に収録済の463種の拓本以外に391種の元代石刻の拓本を所蔵していることがわかり、閲覧カードにより、その所在地、題名を抄写した。なお、1988年に実地調査した51の元代石刻史料の大部分について、北京図書館は拓本を所蔵していなかった。平成三年度も、国際蒙古学学術討論会に参加したついでに、北京図書館で前述の『拓本涯編』未収録分の拓本について史料的価値を調査した。この三年間で『中国方志叢書』河北・河南、山東、山西、陜西の549種の地方志を調査し、各県別に元代石刻史料の所在地、その内容が従来利用可能な文献史料に収録済か否かを調査した。報告書では、『元代石刻集録』の作成をめざし、河北省についての研究成果をまとめた。内容は、石刻史料目録の外に、調査した地方志にのみ、本文内容が記録されていた元代石刻史料92種を収録した。
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