研究概要 |
平成2年度においては,当初の研究計画どおり,「イギリス近代土地政策史」の基礎資料たる『イギリス議会史料』(Parliamentary Debates,5th series vol.144〜217〔1921〜1928〕)を入手した。他方,D_0 Cannadine,The Decline and Fall of the British Aristocracy,1990等の「イギリス上地貴族関係図書」を入手し、これらを解読することによって多大な成果を得た。新たに得られた知見としては,イギリス「土地貴族」の「株式・債券保有貴族」への転身過程の多様性というこである。右の転身過程は時期や方法の点で地域毎に差異があり,イングランドの経験ー昨年度の実績報告書参照ーを性急に一般化しえないというこである。たとえば,アイルランドでは,1903年の「ウィンダム法」を頂点とする自作農創設法にもとづく,国家の助成により,イングランドに先んじて,1900年代に右の転身過程は決定的に進展した。これとは対照的にウエィルズでは国家の助成はなかったが,19世紀末農業大不況期に右の転身過程は早熟的に開始し,第一次大戦の直前及び直後の時期に決定的に進展した。以上に対し,スコットランドでは右の転身過程はもっとも緩慢かつ不完全であり,1930年代に転身を完了した。今一つ,注目すべき点としては,右の転身過程は土地所有者の階層毎に異なっていたということである。年間粗所得£1000〜10,000の小土地所有者は転身に失敗し,早期にかつ完全に消滅し,年間粗所得£10,000〜30,000の中位の土地所有者もほぼ同断であったのに対比し,年間粗所有£30,000以上の巨大な土地所有者は概して土地売却によって得られた売得金をより有利な内・外証券に投資し,利子・配当金に主として依存する「株式・債券保有貴族」(利子取得者)に転身しえた。
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