研究概要 |
平成3年度においては、これまでに収集した『イギリス議会史料』(Parliamentary Debates,5th series)ならびに『イギリス土地貴族関係図書』に加えて,関係の末刊行学位論文等を収集し、現有の史料『借地農・所領売却調査部局委員会』の『報告書』、『証言録』(1912年)等をも併用し、平成元年度及び2年、3年度の研究を総括し、『研究成果報告書』にとりまとめることである。過去、3ケ年の研究によってえられた知見は以下のとおりである。1.第一次大戦前のイギリスにおいて、土地財産の証券化、即ち土地貴族による所領売却と売得金の内・外証券への投資が本格的に開始した。かような「資産転換」の契機(要因)は経済的諸事情(土地貴族の金融的逼迫)と政策的諸契機(自由党政府の農業=土地政策、財政政策、とくに相続税の重課)に求むべきであり、土地財産の証券化は土地貴族にとっては止むを得ない選択であった。2.イギリス土地貴族の株式・債券保有貴族への転身過程は次のような3段階を経て遂行された。(1).W・ハ-コ-トの相続税改正(1894年)を契機とする第1段階(1894〜1909年)、(2)D・ロイド・ジョ-ジの「人民予算」の成立(1910年)を契機とする第2階段(1910〜1914年)、(3)「1919年歳入法」に対応する第3段階(1919〜1921年)。3.右の転身過程は時期や方法の点で地域毎に、また土地所有者の段層毎に異なっており、イングランドの巨大土地所有者の経験を性急に一般化すべきではない。4.転身の第2段階における土地貴族による所領売却の増加は所領売却のための借地農の追放という全く新しい事態を生み出した。このことは「保有の保障」(‘security of tenure')を中核とする新たな土地問題・土地政策の到来を告知している。
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