研究課題に即応した基礎的資料の収集を中心に本年度の研究を進めたが、統計資料類の確保に関しては現在可能な範囲内では、ほゞ8〜9割がた成果があがったといえる。とくにドイツ農業労働者中央幹旋所の非公式の統計資料が若干とはいえ入手しえたことにより、外国人労働者移入統計についての従来の見解の不備を明らかにする手懸りができたと考える。具体的には帝政期の外国人労働者統計の主要資料である(1)1907年6月の全国職業統計、(2)中央幹旋所の身分証明統計、(3)プロセイン内務省の『郡長報告』は、これまで相互に関連づけられることなく、まったく別個に利用・分析され、各々のもつ統計上の欠陥が充分に自覚されないばかりか、数値の処理に極めて初歩的な誤りさえおかしてきたことが判明した。少なくとも外国人労働者統計(帝政期の)のうち、東欧諸地域からの外国人農業者移入数は、相対的に精度の高いものであるが、東欧外からの農業労働者や一般に外国人工業労働者の移入・雇用数は、多分に情報精度に欠け、その扱いに慎重でなければならない。そしてそうしたこと自体、上記3系統の資料の作成意図に規定されたものであった。つまり統計技術的な問題というよりも、外国人労働者統計に逸れがたい国家当局(プロイセン=ドイツ)の政策的意図の問題である。統計資料の数量構成を通じて第二帝政当局による外国人労働者対策の基本姿勢(外国ポ-ランド人の定住阻止・移動規制を軸とする)が浮びあがってくる。以上の諸点を中心に、とりわけKlausJ.Badeの先行研究への批判的検討を踏まえながら、その結論は『人文研究』(41巻・1989年)誌上に「帝政期ドイツの外国人労働者統計資料について」として公表した。さらに今後、第一次大戦前について統計資料を活用しながら、当時の外国人農業労働者の雇用と移入の実態の具体的な解明がめざされる。
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