日本旧石器時代に関する最近の研究において、石材の消耗過程に表われる原石産地遺跡と各消費地遺跡間の関係性から先史狩猟採集民の居住形態・移動様式を推測しようとする新しい研究法が注目されている。この観点に立つと、早坂平遺跡の石器分析によって明らかとなった次の諸点が重要である。 1.在地産頁岩の露頭から直線距離して百メ-トル余の地点に位置する原石産地遺跡であること。 2.石器素材として利用可能な良質の頁岩の露頭範囲が狭く、そのため大産地にしばしば見られるように利用時期が重複したり、その場での作業が複合したりしていないこと。 3.考古学的時間でいえば、この遺跡が利用された期間はきわめて短く極端にいえば、一回性として限定できること。 4.遺跡は原石そのものを採りに来た場所でなく、その場で大型の原石を加工してその後に使う石核・石刃の形態にして持ち出していること。 5.石刃技法は一義的でなく、石材の形態に応じた技術的変異を明示していること。 6.遺跡では石器素材の獲得以外の活動は行われていないこと。 7.編年・系統関係の示準となる特定の石器器種を組成していなくてもそのことがかえってその場の機能を単純に示唆できる点を示していること。 8.奥羽山脈以西の珪質頁岩地帯の石刃石器群とは異質の石器群が北上高地以東に存在するらしいこと。 現在、発掘参加者による報告書の分担執筆がほぼ完了し、原稿が印刷にまわされている。小生の分担は、まとめとしての総論「日本旧石器時代構造変動試論」である。
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