本研究は、大きく分けて、次の三段階から成立している。1、中世文書を収集し、研究基礎資料を作成すること。2、漢字の用法の実態を把握すること。3、漢字の用法の実態を分析して、表記原理を解明すること、また、常用漢字・非常用漢字、その他について、共時的・通時的考察を行なうこと。成果は、それぞれにおいて得られたが、以下には、3の主要部についての概要だけを記し、1・2のそれは省略する。 (1)『鎌倉幕府法』(御成敗式目、追加法)は、当時の武士や民衆のために分かりやすく作られた法律である。それまでの律令格式などの公家法が「正格漢文体」を主としたものであるのに対し、これは、常用漢字を基調とする「日本常用漢文体」で形成されている。 『鎌倉幕府法』(御成敗式目、追加法)の字数(字種)の調査によれば、当時の武士や民間の人々は、日常生活を行なう上で、少なくとも、約1、000字弱の漢字を習得しておかねばならなかったと推測される。これは、自分を守るための最低限度の数字でもあったろう。 (2)日本語において常用的に用いられている助数詞は、日本の文書語の中で育まれてきたものと考える。日本の文書語は、古代中国の影響を受けて成立している。助数詞も同様であり、これは古代中国の量詞(日本における助数詞に相当する)の流れを汲むものと考えられる。但し従来の資料(古典語文)による限り、この証明は困難である。 古代中国研究のための新資料として、近年、漢代を中心とする古文書類、即ち、竹簡、木簡が注目されている。この新資料によれば、日本語の助数詞の源流は、古代中国の量詞であると判明する。 (3)『色葉字類抄』における語彙につき、その「天部」「地部」をサンプルとして、それらの常用性・実用性について調査した。 (4)『雲州往来』は、中世において、皇族・貴族・僧侶等により、書道の手本として、また、読本として利用されていたことを究明した。
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