1.「伊豆箱根の本地」「月日の本地」「戒言」「富士山の本地」の諸本の調査収集をし、諸法の系統的生理を進めた。とくに箱根神社所蔵(箱根郷土資料館保管)の「箱根権現絵巻」(非公開)を拝観し、写真撮影も許されて、カラ-写真を座右に備えることができ、研究上、大きな便益を得た。今後も検討を続けなければならないが、絵巻の詳細な考察が可能になり、文学史的位置づけの研究にも大きな成果が期待できる。 2.臨地調査の結果、「伊豆箱根の本地」の中世の諸本が、伊豆、箱根、大磯など舞台になった土地を、かなりよく反映していることを検証することができた。絵巻の絵の描写も同様で、この本地が、それぞれの土地と密着して形成されたことがよくわかる。伊豆山神社、箱根神社、高麗神社に、この本地を支える唱導者がいた可能性は大きく、それは『曽我物』の形成の背景と、同質的である。今後具体的に考証しなければならない重要な課題である。「戒言」の異本「蚕養由来」の刊行者の徳宝院の子孫を探し当て、その成立事情を明らかにすることができた。 3.貞享元年板「観世音菩薩往生浄土本縁経」の本文全文を入手することができ、中世の物語文学に見える早離速離物語を「お銀小銀」の一例として、本格的に分析することができた。本経は中国で成立した経典で、「尸語故事」の「日光月光」の漢文版に相当する。他に異本もあるらしく、それらの一つが、「月日の本地」の典拠になったと推定できる。「戒言」の「蚕影山縁起」も、継子を勢至菩薩としており、本経の類からの転化であることが考えられる。 4.「お銀小銀」型の昔話の収集、分析も、基本的作業をおわった。基本型の類話は以外に少く、地域的特色もかなり顕著である。昔話をして残っている例も、それぞれの地方で語り物として語られていた可能性が大きいことが、具体的に明らかになった。
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