山口県阿武郡須佐町にある益田家は、中世以来近世に至るまで、毛利藩の家老として政治面で活躍した他に、毛利藩内における文芸活動の中心的役割を担ってきた名家であるが、その所蔵資料の多くは未公開のままに放置されてきた。平成元年6月3日より6月6日までの第1回調査は予備調査と蔵書状況の把握を中心としたものである。蔵の中は手つかずの状態にあり積年のゴミ・ホコリにおおわれており、すす払い等の清掃がまず行われ、次に蔵書数、約1500点程の整理・点検を行った。まず古典籍として完備しているもの、書簡・文書としての区分されるもの、端本等で不揃のもの、虫害、汚れのいちぢるしいもの等に仕分けした。かなりのもの(約200点)が、破損直前にあり、この調査遂行の重要性を再認識した。調査人数も少なく(補助者1名)、汚れもひどく、調査は困難を極めたが予備調査の目的はほぼ終えた。第2回調査は9月7日より9月11日迄の間、書誌カ-ド(国立国文学研究資料館作製の調査要領カ-ドに拠る)の作成を目的として行われた。第1回調査で古典籍和書(明治以前の刊本・写本)と認定したもののうちから、殊に国文関係のものを優先してカ-ドとりをした。中には中世未写本(室町時代後期)と思われる連歌関係資料、近世初期(江戸時代初期)と思われ源氏物語写本・謡本、さらに大名家からの寄贈と思われる歌書などが存しており、益田家における文芸活動の広がりが、当時の地域文化拡大に大きな役割を担ったものであることが実証された。カ-ドは初め500点を目標にしたが、約350点ほどの収集に終った。10月以降はカ-ドの点検作業を行った。次年度は残りの国文学関係の古典籍の他に、漢文学(儒学)、歴史書の調査を引き続き遂行して、益田家をとりまく文芸状況をなお一層明らかにしていきたい。
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