最近の言語学(とくに、生成文法理論のパラダイムにもとづく意味論と語用論の研究分野においては)、文法と談話の相互関係を明らかにしていくための基礎的な研究として、対話文のグロ-バルな結束性の問題が注目されてきている。本年度の研究ではとくにこの方面の問題を考慮しながら、談話を構成する対話文の流れを特徴づける要因として、対話文相互の結束性(とくに形式的な観点からみた対話文の連結性と意味的な観点からみた対話文の首尾一貫性)の問題を、談話をグロ-バルに支配する発話行為の共起関係と発話文の連続性に焦点を当てて考察した。文や談話の理解を特徴づける言語的な要因は多様であるが、そのなかでも、対話文の流れを支配する発話行為の共起関係と発話行為の依存関係の問題は、文法と談話の相互関係に関する重要な言語的手がかりを与えてくれる。本研究では、さらに談話の背景を理解するための推論事象(概念的推論、デフォ-ルト的推論、アナロジ-的推論)にかかわる意味的要因と語用論的要因を抽出した。そして、これらの要因が、対話文や談話の背景の一部を構成する潜在的文脈に影響する事実を明らかにした。さらに、本研究では、談話から誘引される各種の含意の言語的な位置づけを図り、これらの含意のタイプにもとづいて、推論の類型化を試みた。とくに、今年度の研究では、1)命題の概念内容にもとづく意味的推論、2)慣例的知識にもとづくデフォ-ルト的推論、3)言語外的知識にもとづく語用論的な推論の問題を、日・英語の対話文を特徴づける意味的含意と語用論的含意の類型化にもとづいて考察した。この種の含意がかかわる推論と潜在文脈の認定の研究は、前年度の研究、とくに文や談話の情報の関連性/一貫性の問題と対話文の背後の対人関係の機能の解明にも密接にかかわっている。
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