研究概要 |
ソロウ(H.D.Thoreau)の文学に見られる予型論的伝統の変容について、本年度は次の三点について解明した。 1.Walden(1854)出版までのソロウの自然観形成に働いた予型論的思考法を鳥のイメッジをめぐって考察し、「ジャ-ナルから作品へ-ソロウの鳥とイギリス・ロマン派」と題する論文にまとめた。特にソロウが、Coleridge,Wordsworth,Keats,Shelleyらイギリス・ロマン派の謳う鳥に新世界固有の予型論的意義を賊与するプロセスを、Waldenの素材となったJournalの鳥の記述を詳細に検討し解明した。 2.Walden出版以降、特に最晩年(1859-1862)に書かれたJournal及び自然史ノ-トに表れたソロウの自然観について、予型論(神学)的自然観と科学的自然観の葛藤と和解の内実を考察し、「『種の起原』と『種の拡散』--ダ-ウィンとソロウ」と題する論文にまとめた。特に19世紀中葉の科学者、Asa Gray,Louis Agassiz,Charles Darwinらのソロウへの影響を調査し、『種の起原』とソロウの自然史ノ-ト、『種の拡散』(The Dispersion of Seeds)又その講演原稿「森の木の継続」(“The Succession of the Forest Trees")との比較検討により、ソロウがcreationismの自然観を克服し、positivismの自然観に到達してゆくプロセスを解明した。又ソロウがアメリカの市民史に対立するものとしてのアメリカの自然史樹立を目指したことも考察した。 3.予型論的思考が形成したNew England Jeremiadと呼ばれる伝統は、18、19世紀の歴史的展開のなかで大きく変容し、フランクリン的American Value賞讃の思潮へと世俗化した。C.B.BrownよりE.A.Poeへと続くAmerican Gothicはかかる思潮へのアンチテ-ゼとして理解できることを「アメリカン・ゴシックの変容-BrownからPoeへ」で考察した。この研究は予型論継承の振幅を明確化し、ソロウを広く共時的視点から把握せんとしたものである。
|