研究概要 |
本年度の研究目的は、ソロウの文学がアメリカの神学的柱であった予型論の伝統を変容する過程をソロウのアメリカ観において考察することにおいた。その実施計画は、以下の4項目であった。 1、未出版手稿、“The Dispersion of Seeds"の構造・テ-マ解明。2、ソロウのreform paperにおける民主主義思想と予型論の関係考察。3、John Brown処刑事件へのソロウの発言と行動の再検討。4、ソロウのアメリカ的自然と歴史への対処が、予型論的伝統を歴史観へ変容する過程についての考察。 上記1に関しては、新たにニュ-ヨ-ク市立図書館より入手した手稿のコピ-“Wild Fruits"やWilliam Howorthの文献等の研究により、ソロウ最晩年の自然誌エッセイの意義と構造をかなりな程度まで究明し得た。 上記2、3については、ミシガン州立大学より入手したJohn Brown関係の文献、James Redpath,Echoes of Harper's Ferry(1860)その他により再検討し、1859年12月2日(Brown処刑の日)前後のJournal、手紙を詳細に検討した。従来ソロウの社会的発言と自然への没頭は分離して捉えられてきたが、Brown追悼ミサ広告の十数枚のコピ-裏面が、自然誌手稿に使われる等、両者は内部に深く関わることが判明した。この点についてはAdams and Ross,Revising Mythologies(1988)に代表されるソロウ作品成立過程の研究文献等参照すべきものも多く、なお今後の研究課題としたい。 上記4は本研究の結論部である。本研究はソロウが予型論的伝統を自然観の枠組に変容し、更に自然が人間の常為と緊密かつ有機的な相互関係を形成するエコロジカルな歴史観に到達したとの結論に達した。従来から指摘されてきたエコロジ-の先駆者としてのみならず、今日的歴史観を持つソロウを考察した。
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