研究概要 |
指示代名詞の用法を通して、言語情報の伝達・認知のメカニズムを探るために、当該年度は特に「周知の指示形容詞」と呼びうる用法に焦点を絞って研究を行なった。これは、<指示形容詞+名詞句+関係節>の構造を持ち、ある概念つまり情報を、あたかも聞き手を含め一般に知られている周知であるかのような印象を与えて、効果的に伝達行為を行うために用いられる言語手段である。フランス語におけるこの現象の持つ制約と特徴を整理し、それらの事実を指示詞の持つ一般的な性格との関連の中で説明するべく研究を進めた。四つの特徴・制約とは、 1.可算名詞の場合、一般に複数形が多い。 2.関係節の時制は一般に現在形、半過去形におかれている。 3.「周知の指示形容詞」を導入する要素に一定の特徴が見られる。 (1)記憶を喚起される要素:rappeler,se souvenir de,faire penser a (2)類似性を喚起させる比喩的表現:donner l'air de,ressembler a,comme 4.「周知の指示形容詞」を伴った名詞句は、発話の頭(テ-ムの位置)には現れない。指示形容詞の基本的な性格は、共発話者に対してce Nの形で指示された指示対象の同定を要求する点にある。「周知の指示形容詞」の場合は、関係節の記述によって一つの概念が形成され、それがce Nと結び付いてサブ・クラスが形成され、一方指示形容詞は指示対象の同定が可能であることを前提として用いられ、共発話者に指示対象を同定することを求める。その結果、実際には指示対象についての知識がなくとも、関係節の内容を通して一種の自己指示を通して疑似的同定が行なわれる。そこに周知の効果が生まれる。上記四つの制約・特徴もこの操作の現われとして説明することができた。尚、日本語の指示詞と周知の効果についても研究を続行中である。
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