研究概要 |
1.三年計画の初年度である本年度はまずタイ語のアスペクトとム-ドに関する先行研究の概観を行った。ここで明らかになった事は、アスペクトに関しては全く研究者間で意見の一致がなく、形式ca(“intend to",“will")についてナワワン・パントメ-タ-およびニタヤ・カンチャナワンは「これから起こる」の意味のアスペクトであると言い、リチャ-ド・ノスは単にパ-ティクルであると言い、ウパキット・シラパサ-ンおよびウィチ-ン・パ-ヌポン、河部利男は未来の助動詞であると言い、トマス・スコヴェルは“future time preverb"と名づけ、全く混沌としている。筆者は夏にイギリスのランカスタ-大学に行き、コンピュ-タ-・コンコ-ダンスについて教えを受けた際ジェフリ-・リ-チとこの事について話し、その結果caはアスペクトではなくモダリティを表わす助動詞であるとの確信をえた。この点を今後タイ国の国語教科書の分析から証明していく予定である。モダリティに関しては坂本恭章が「タイ語入門」において一部ではあるが言語学的に分析しているほかは、まだあまり系統的な研究は見られない。 2.分析の手段として当初はカ-ドに教科書の文を一文づつ転写し、日本語訳をそえたものを作成しようと計画していたが、それでは例文の整理が手仕事になり、文法の分析に関係のない文まで翻訳をつけるのは余りにも時間のロスがありすぎるので、KWICを用いてコンピュ-タ-・コンコ-ダンスを作成することにした。現在小学校の教科書のインプットを進めている段階であるが、思いがけず楽しい副産物としてタイ語のオノマトペにおける音韻交替の傾向や、ラ-チャ-サップ(タイの宮廷語)の豊富な実例、および人称代名詞の用例など、動詞句以外の分野においてもこのコンコ-ダンスの有用性が判明しつつある。
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