本研究は、基本的には当初の研究目的に沿って進められた。しかし、上記の(1)ー(3)のすべてにわたり、現当点で研究成果が得られたわけではない。以下に、3年間の研究の結果えられた成果の概要を、研究成果報告書の内容に沿って明らかにする。 第1章では、文化相対主義の立場から“人権"概念の普遍性を疑問視する考え方と、これに対する批判に関する論争を素描し、地球規模での普遍的な“人権"概念を考察するさいの手がかりとした。 “人権"概念を研究する場合、その前提として人権・平和・開発の相互関連について理解する必要がある。第2章では、アジア地域における実際の問題状況素材として、人権と開発の関連を考察した。 “人権"概念の理解のしかたは、先進国と発展途上国、キリスト教世界とイスラ-ム教世界、等の経済・文化・宗教的背景の違いによって異なることが少なくない。しかし、かりに類似の背景をもつ地域においても、マジョリティとマイノリティとでは“人権"概念に関する理解のしかたも微妙に食い違う場合がある。とくに、先住民の場合には、生活の実態がマジョリティとはかなり異なるので、一層この点が浮き彫りにされる。第3章では、こうした視点から、アジア地域におけるマイノリティの置かれている状況を一般的に概観し、さらにフィリピンおよびパキスタンにおけるマイノリティや先住民の具体的入権状況を紹介し、国家や社会におけるマジョリティとマイノリティの拮抗関係の中で、共通の“人権"概念を模索するさいの出発点とした。 “人権"概念を考える場合、人権を純粋に個人的なものとして捉えるのか、あるいは集団的人権の存在も承認するのかは大きな論点である。この点に関連し、ロ-エイシャという人権NGOが作成した「太平洋人権憲章草案」は、太平洋地域の特色を反映して、集団的人権の存在を前提としている。集団的人権の捉え方は本研究目的の(1)とも密接に関わるので、最後の第4章では、同草案を紹介してその特色を明らかにした。
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