当初計画では、平成元年度は、ヴァイマル憲法下におけるシュミット(Carl Schmitt)の制度的保障理論を彼の憲法理論の体系全体のなかで明確にし、平成2年度は、これらの課題をなお追求するとともに、ボン基本法下の制度的保障理論、とくにヘ-ベルレ(Peter Haberle)の制度的基本権理論を検討することとしていた。 これまでの研究により、第一に、シュミットの憲法理論との関わりでは、1.彼の方法の根本的概念が、憲法制定権力と憲法によって形成された権力との区別の公理にあり、この区別から、憲法制定権力の政治的全体決定としての「実定的憲法」とたんなる憲法律との分離が導き出されるということ、2.彼の決断主義理論における「決断」という観念が、政治的法律概念と法治国家的法律概念との区別を特徴づけているということ、3.彼の制度的保障理論は、そのような憲法制定権力論や法律概念の検討なしには評価できないということ、などが明らかになってきた。 第二に、制度的保障理論そのものとの関わりでは、1.シュミットに代表されるヴァイマル期のそれが「国家に対する保障」と位置づけられ、制度的保障は主観的権利を強化すべきものと観念されていたこと、2.このヴァイマル期の理論はボン基本法下でも維持され、保障の性格・内容・方向・機能に即して検討が深められ、近年では制度的保障に立法府の不作為に対する保障や第三者効力の保護も含まれるかどうかについて論議されていること、3.これに対して、ヘ-ベルレの制度的基本権理論は「国家による保障」と性格づけられ、主観的自由権と客観的法制度とを等置していること、などが明確になってきた。
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