1.公衆衛生上の問題については、エイズ・ウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)の抗体検査をめぐる州の法律を中心に研究した。多くの州法は、インフォ-ムド・コンセントの要件、検査結果の守秘、および陽性反応者に対するカウンセリングの義務づけを定めている。さらに、最近の注目される動きとして、感染経路の追跡と性的接触の相手や注射針の共有者に対する警告を目的として、陽性反応者の氏名を州の保健部に通報することを検査者に義務づける法律を制定する州が漸増する傾向にあることが挙げられる。2.エイズ患者やウイルス感染者に対する差別の問題については、これらの者が、リハビリテイション法504条や州の差別禁止法、あるいは合衆国憲法の平等保護条項による保護の対象となるかどうかが主たる論点となる。すでに、職場、学校、住宅の供給等における差別の事例について多くの訴訟が起こされているが、裁判所の態度はほぼ一貫してエイズ患者等がこれらの保護の対象となることを肯定するものであり、要件が満たされる限り、差別を差し止め、あるいは差別による損害の賠償を与えるものであった。このような訴訟において決め手となったのは、日常的な接触によってエイズ・ウイルスが感染する危険がほとんどないことであった。従って、エイズが進行して、患者の罹患した日和見感染症が他者に感染する危険がある場合などは、保護は否定されることになる。3.血液銀行や血液製剤メ-カ-のエイズ感染に対する責任の問題については、血液等の供給をサ-ビスの提供と扱う法律がほとんどの州で制定されており、原告は過失理論に依るほかなく、また、1984年まではエイズ・ウイルスの同定ができていなかったため、輸血や血液製剤によるエイズ感染者を原告とする訴訟の多くが、原告敗訴に終わっている。4.故意にエイズを感染させる行為の刑事責任については、それを処罰する特別規定を設ける州が少なくなかった。
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