今年度は我国の刑事弁護の状況、特に我国の社会変化が刑事弁護に与えるインパクトを明らかにするために、東京を中心に実態調査を行った。今日、渉外の領域に典型的に見られるように、大企業関係の法律業務が民事一般から除々に分離し、それと同時に、刑事弁護事件を受任する弁護士が減少するという傾向が生じている。もっとも、個別面接調査からの推論によれば、刑事弁護を担う弁護士の社会的特性は必ずしも一様ではなく、依頼人の社会的特性との関係で一定の特徴を持っているように見える。すなわち、(1)選挙違反・税法違反などを受任する弁護士、(2)労働運動などに関連する刑事事件を受任する弁護士、(3)交通事件のようないわゆる一般刑事件を受任する弁護士、(4)国選事件を受任する弁護士、である。依頼人との関係でこれらの弁護士に期待されている役割は必ずしも同一ではなく、民事を含む全体としての業務パタ-ンも相互に相当異なっているように思われる。 昨年は、法律扶助協会による被疑者弁護人扶助制度と当番弁護士制度という、将来の刑事弁護のあり方に大きな影響を与えるかも知れぬ新たな試みが始まった.仮にこれらの制度が育つとしても、上の4つのグル-プが蒙むる影響は同じではないと予想される。これらについても、関係当事者から聞き取りを行った。 このため、質問票調査の実施が遅れたが(成果報告書未提出)、結果が得られれば、個別の面接調査で得られた推論の検証ができるであろう。また、刑事弁護の質についてもおおよその仮説が立てられるものと思われる。今後さらに、面接調査を行ない、刑事弁護の質についてより詳細なデ-タによる検討を予定している。
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