日本神道、ことに氏神信仰についての文献上の民俗学的サ-ベイは、ほぼ完了し、歴史学・社会人類学の成果等もふくめて、その神観念および儀礼の原型と思われる全体像を、現在残されている資料およびいくつかの地域調査から推定しうるかきりで、明らかにすることができた。その結果、柳田国男の仮説が氏神信仰把握としては、なお妥当性をもつものであるとの判断をえ、まずその所説を軸に検討の結果を発表した。社会人類学的な方法による氏神信仰の分析は、その前提となるレヴィ=ストロ-スやデュルケ-ム等社会人類学の学説検討と並行して、現在進行させつつあり、その一部は、柳田国男の氏神信仰論を含めて、昨年著作として刊行することができた。また、フランスを中心とするヨ-ロッパ人類学および宗教学の専門家と、日本神道についての意見交換をおこなってきたが、北関東・出雲・南西国・熊野などで実施した在地の民間信仰の調査をもとに、三月末にオランダおよびフランスで研究会をもち、氏神信仰における神観念や儀礼さらには、伝説・昔話などの検討、その構造的分析によって、この氏神信仰が、日本人の価値観や社会観に重要な影響を与えていること、その具体的内容が明らかになり、それらの構造の意味するところについての見通しがほぼ得られた。 さらに、近代日本の政治思想・政治意識と氏神信仰との関連については、国家神道と氏神神道との関連、柳田国男・大川周明・橘孝三郎などにおける政治思想と神道との関連の問題を検討することができた。しかし国家神道の政治学的研究がおどろくほど層のうすいものであり、今後本格的検討をおこなう必要が痛感された。なおこれらの検討の過程で、日本政治史および政治思想史にもつ氏神信仰研究の重要性が改めて明らかとなった。
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