日本の海外直接投資は、1985年以降の円高の下で、急速に拡大していった。このような海外直接投資の拡大は、たんに生産の国内から海外への移転というような変化だけでなく、企業内貿易の拡大による貿易構造の変化、日本企業の行動パタ-ンの変化など、様々な側面で大きな構造変化を起こしている。このような中で、企業内貿易の拡大は、今後の日本の貿易構造の動き、産業のあり方を考える上で重要な問題となっている。自動車産業や家電産業の部品調達と組立て工程のネットワ-クは、アジア全域に広がりつつある。最終消費財の海外調達は、日本の流通構造に大きな変化をもたらしつつある。これらは様々な変化の中の一部にすぎず、今後この他にも色々な形の変化が予想される。海外直接投資とはいっても、国内での投資と基本的な性格が大きく異なるわけではない。したがって、企業行動に大きな影響を及ぼす要因である産業構造、競争形態、製品の性格、マ-ケッティング戦略などと大きなかかわりがある。このような点を明らかにすることなくして、直接投資のメカニズムについて理解することは難しい。為替レ-ト、金利、貯蓄、投資のマクロバランスなど、マクロ的要因によって動く海外証券投資とは大きく異なる点である。我々の行なったアンケ-ト調査では、このような「産業組識的要因」について、より突っ込んだ分析結果が得られた(詳細については別添の研究報告を参照)。なお、貿易摩擦問 題と直接投資の間にも密接なかかわりがある。直接投資を拡大させるひとつの要因であった貿易摩擦であるが、直接投資の拡大によって「投資摩擦」という新たな問題を抱えるようになった点は注目に値する。この点についての分析は今後の課題である。
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