平成元年度内には、国内におけるデータの収集・整理を行なってきた。加えて、国際会議での研究交換と討論を行ない、何人かのアメリカ人研究者とはデータ及び技術的な意見交換をした。同時に出生率の経済学において世界的なパイオニアといえるシカゴ大学のベッカー教授、南カリアフォルニア大学のイースタリン教授と手紙による意見交換をし、また、イースタリン教授とは直接会って討論した。 本研究の目的は、まず、イースタリン仮説、すなわち出生率が振動的に変動する傾向の説明を行なうこと、第二に、実質所得と出生率について、比例的あるいは反比例的な関係の存在を立証することである。これは多くの学者がこれまで様々な議論を交わしてきた問題である。 そこで、次のような代表的家計を考える。親は自分自身の消費から得られる効用に子供の効用を加えたものを最大化しようとする。子供一人の効用に子供の人数をかけ、それにウエートをつけて加えるのである。親の制約式には子供の養育費や子孫への遺産も含まれている。親は、子供の効用を含めた効用を最大化するように、消費量、子供の数、遺産の額を決める。次の世代も同様のことを繰り返す。このようにして出生率の変動経路が得られる。 本研究の中では、出生率の変動は、子供の効用に対するウエートの関数形のみによって決まることを明らかにした。これは、親の消費からの効用や生産量が一般的な非線形関数であっても成り立つ。しかも、すべては子供に対する親の限界評価曲線(これはモデルの中で導かれる)の弾力性に依存する。限界評価曲線は、ある意味で子供への需要曲線とみなすこともできる。我々の結論は、これが直角双曲線と比較して、限界評価がそれより急速に減少するとき、出生率は振動しながら所得とともに変動していくというものである。後者は、イースタリン仮説における出生率の循環的変動と対応している。
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