この研究は、情報財の取引制度(知的所有権制度)を、情報の複写費用・同防止費用および情報財所有権の保護費用等の諸要因を考慮しつつ経済学の立場から理論的に分析し、それぞれの情報財の特質に適した取引制度の特色・条件を考察し、現存制度の改善、新しい制度の創設に資することを目的とした。 第1に、情報財の生産・取引・使用を説明するための理論モデルを作成した。取引に参加する3種類の経済主体を考え、(i)情報の原生産者は、情報生産技術と複製防止技術のもとで、情報財販売から得られる収入と情報生産費用・複製防止費用の差を最大化し、(ii)情報複製者は、複製された情報(2次情報)の販売収入と、複製費用(原情報の複製防止策を無効にするための費用を含む)の差を最大化し、また、(iii)情報使用者は、原情報あるいは2次情報の購入から得られる利益と購入費用の差を最大化するものと仮定する。これらの経済主体が参加する市場で原情報・2次情報の均衡生産量および価格をがどのように決められるかを分析し、それらを社会的に最適な生産量・価格と比較した。 第2に、情報財の取引制度(情報所有権保護の程度、罰則等)自体を変数と考え、原情報財・2次情報財の生産量を社会的な最適水準に一致させるための取引制度、すなわち社会的に最適な制度を決めるためのモデルを作成するための方策を考えた。この場合、制度の維持・実行のための費用を、社会的に最適な情報生産水準の定義に含ませて考え、最適制度は、情報財の性質、複製技術・同防止技術、および制度費用に依存するとの考え方を採った。モデル内容に関する諸前提、要因間の相互関連、あり得べき結論については明らかにすることができたが、実際のモデル分析は、その複雑さゆえに理論的分析がほとんど不可能であることがわかった。将来において、数値例などによる分析が必要と考えられる。
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