本研究は、多変量時系列の間の因果関係の統計的測定と検出に関する理論の開発は、その応用を調査するものであり、本年度は以下の成果を得ることが出来た。(1)二つの多変料定常時系列過程の相互依存を表す尺度として、Gel'Fand-Yaglomの情報尺度が知られているが、本研究は、この尺度が、一方向効果の尺度と総合効果に分割出来ることを明らかにした。この一方向効果尺度は本研究に新しく開発された尺度であり、一つの時系列の他への一方的因果性を検出する量である。類似の概念としてこれまでGewekeによる線型フィ-ドバック測度が知られているが、彼の測度は場合によって周波数領域での分解を許さない場合がある。この一方向効果測度はこの困難がなく、一般的な状況で分解可能となり、各周波数での効果測定が可能である。さらに一方向効果と相互効果にパワ-スペクトルは分解され、それぞれの相対的寄与率を測定することが可能となることが判明した。パワ-寄与率については、これまで赤池の概念が知られているが、これはノイズの寄与率であり、本研究の新しい点は、観測時系列のそれぞれに対する寄与が測れることである。(2)一方向効果の周波数ごとの尺度及び総尺度の統計的推定については、母数推定とノンパラメントリック推定の二種類の推定があるが、パラメトリック推定については、多数量ARMAモデルのあてはめにもとづく推定度が有効であり、これによりまた一方向効果、相互効果のパワ-寄与率も統計的推定が可能となる。ノンパラメントリック推定については今後の課題として残る。
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