通常の線型回帰モデルにおいて、攪乱項が系列相関を持っているか否かの検定はダ-ビン・ワトソン統計量を用いて行われる。説明変数に遅れのある内生変数が含まれている時は、ダ-ビン・ワトソン統計量は正しくなくなり、ダ-ビンhの統計量を用いるべきであることが知られている。本研究は、もし説明変数が決定的トレンドあるいは確率的トレンドを持つ場合は、h統計量を用いるまでもなくダ-ビン・ワトソン統計量が再び有効になりうることを示したものである。具体的には、 1.まず大標本理論を用いて、上記の命題を厳密に示した。 2.次に、種々の仮想的なモデルを想定してモンテ・カルロ実験を行い、検出力曲線を求めた。その具体的な結果の詳細は省略するが、実用的に重要な発見として、標本数が80以上であればダ-ビン・ワトソン統計量が有効であることが明らかになった。 3.さらに、通常の経済デ-タにおける上記の命題の妥当性を示すために、推定された日本の貨幣需要関数に基づいて実験デ-タを発生させて同様の実験を行ったが、おおむね同様な結果を得た。 4.副次的な実験結果として、説明変数にトレンドがない場合に正しい手法として従来より用いられているダ-ビンのh統計量が、小標本では必ずしも優れた性質を持っていないことが明らかになった。これの原因究明のために多くの実験を行ったが、今のところ明解な結論は得られておらず、今後の課題としたい。
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