本研究で得られた成果と今後の展望は、大きく次の3点にまとめることができる。 1.非定常時系列モデルに関連して使われる諸統計量の漸近理論の構築非定常な自己回帰モデルにおいて、2次形式(および双1次形式)の比で表される推定量や検定統計量の漸近分布を導出する一般的な方法を提案した。従来の不変性原理によるアプロ-チでは、分布関数の計算をシミュレ-ションに頼らざるを得なかったが、この方法を使えば正確な計算が可能である。この方法の応用として、単位根の検定に使われているいくつかの検定方式の漸近局所的な検出力を計算した。 2.反転不能な時系列モデルの推測理論 当初の目的は、反転不能な移動平均モデルにおける最尤推定量の極限分布を導出することであったが、今回の研究ではそこまで到達できなかった。そのかわりに、局所的最尤推定量の漸近的挙動についていくつかの性質を理論的に調べた。自己回帰の場合と異なり、一致性は常には得られない、初期値が漸近的に影響を与える、などの性質があり、分析は自己回帰の場合とパラレルには行えない。なお、移動平均部分の単位根の検定については興味ある検定方式を提案することができた。 3.共和分過程の漸近理論 共和分の概念は現在の非定常時系列の研究において最も重要な概念である。本研究では共和分ベクトルの推定量の漸近分布などについて考察したが、最近になって共和分の概念は反転不能性と深く関わることを認識し、その観点から共和分の存在の野題を考えることに意味があることを発見した。しかし、これについては今後の研究テ-マとしたい。
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