本年度は4本の論文を執筆した。一番目の論文では、企業において労働投入がなぜ内部化されるか、そして年齢賃金プロファイルはなぜ右上がりとなるのかに関して、諸説を整理しながら筆者の主張を述べた。特に、従来の内部化理論は企業特殊人的資本の概念を用いたものが全てであるといっても過言ではなかったが、ここでは企業内における労働者間の協力関係の確保と世代間移転の利益の確保という要因を強調した。二番目の論文では、賃金プロファイルの変動に関する、筆者の理論と競合する他の仮説(プロファイルの変動は景気要因に起因するというもの)との比較に重点をおき、様々な時点における有効求人倍率の年齢別賃金格差への効果を分析し、それらの競合仮説はそれほど有力な仮説ではないことを示した。三番目の論文では、特に賃金プロファイルの変動要因の理論的分析に重点をおき、理論仮説を実証も行なった。変動の要因としては、消費財価格に関する不確実性に起因する危険を企業が吸収すること、及び同一企業内の異なった世代の労働者間でその危険を分担することを指摘し、それらのメカニズムを数式モデルで解明し、わが国のデ-タを用いてその仮説の妥当性を実証した。以上の実証研究では、賃金格差として40歳代の賃金と20歳代前半の賃金との比率を使用したが、4番目の論文では、他のいくつかの年齢階級との賃金格差も調べた。その結果、小企業以外では、基準年齢階級と他の年齢階級との間の賃金格差はほぼ同方向に変化していることがわかり、筆者の上記の理論と実証はかなりの一般性を持つことが判明した。
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