本研究は、労働力の内部化の要因と、内部労働市場内での年齢賃金プロファイルの決定問題を、理論的・実証的に分析した。従来の内部化理論は、企業特殊人的資本に概念を用いたものが全てであるといっても過言ではないが、本研究では企業内における労働者間の協力関係の確保という要因と、内部化された際に同一企業内労働者の世代間で移転を行なうことによって利益が得られるという要因を強調した。プロテァイルの決定に関する理論では、特にその変動を説明することに力点をおいた。従来のプロファイル理論は、変動をほとんど説明していなかったが。本研究では構造的・制度的要因の他に、消費財価格に関する不確実性に起因する危険を企業が吸収すること、及び同一企業内の異なった世代の労働者間で危険を分担することが、プロファイルの変動をもたらすことを指摘し、それらのメカニズムを数式モデルで表現した。プロファイルの変動に関しては大規模な実証を行ない、理論仮説を支持するような結果を得た。また賃金格差の変動に関する、筆者の理論と競合する他の仮説(必ずしもプロファイルの理論ではなく、変動は景気要因に起因するというもの)との実証比較も行なった。様々な時点における有効求人倍率に年齢別賃金格差への効果を分析し、それらの競合仮説はそれほど有力な仮説ではないことを示した。これらの実証は時系列デ-タを用いたものであるが、都道府県別の横断図デ-タを用いた実証も行ない、上記の理論仮説を支持するような結果を得た。さらに、学歴が賃金格差を規定する極めて重要な要因であるため、今日ではもっとも重要な学歴決定である大学進学が、どのような要因によって規定されるかを社会経済的要因にも注目し、都道府県別の横断面デ-タを使って分析した。
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