本年度には、中国では天安門事件(1989年6月4日)が発生した。このため、その経済的、政治的背景及びそれが中国の対外開放政策にもたらす影響について、分析を行う必要が生じた。 天安門事件の経済的、政治的背景としては、改革・開放の進展が二桁インフレをもたらしたのみならず、従来の社会主義の理論・理念とは逆のベクトル(所有制の多様化、私有の承認、市場メカニズムの広範な利用、倒産、失業の容認等)へつきすすまざるをえず、また、政治体制の改革にも及ばざるをえなかったことから、従来の社会主義体制、理念に固執する勢力との対立を激化させたと考えられる。以上の点の検討を行い、講演あるいは論文としてまとめた。 また中国における改革の現実の到達点についても確認する必要性も生じ、この点については、生産手段(生産財、資本財)の流通面からの検討を行った。 以上の検討から、天安門事件にもかかわらず、経済改革および対外経済開放政策は、中国経済発展、活性化にとって不可欠であり、もはや逆もどりできないということを確認した。事実、現在、中国政府は、対外経済面では沿海地域経済発展戦略の推進を再び打ち出している。その意味で、今後、アジア・太平洋地域における国際分業システムの形成をとらえる必要性は重要性をましていると考えられる。
|