1970年代末、改革・開放に転じた中国は、従来の社会主義経済システムの改革、経済発展戦略の大胆な転換をおしすすめるにいたった。集権的計画経済システムの手直し・柔軟性の付与、計画システム外の非国有企業の発展といった改革と同時に、(1)重工業優先から労働集約的消費財工業中心、(2)内陸地域重視の均衡成長から沿海地域優先の不均衡成長戦略、(3)内需主導の内向き発展戦略から輸出主導の外向き発展戦略、への転換がはかられた。こうした改革と経済発展戦略の転換によって、東部沿海地域を中心とする郷鎮企業や外資系企業等の非国有企業の発展、華南経済圏、環黄海経済圏等の国境を超えた局地的経済圏の発展が促され、80年代の中国経済の相対的に良好な経済発展がもたらされている。しかし80年代には、国有企業の不振、国民経済のリーデイングセクターから国民経済発展の重荷への転落、地域格差の拡大、生産構造と消費構造、加工業と素材産業・インフラ部門との矛盾等の問題を生みだし改革と経済発展戦略の行き詰まりがあらわれるにいたっている。90年代うちだされた「社会主義市場経済」樹立の提起と、郷鎮企業等の非国有企業が担ってきた消費財生産=軽工業から国有企業が担う重化学工業、東部沿海地域から東部沿海地域と長江流域経済圏の形成による内陸重視への経済発展戦略の再転換は、こうした行き詰まりを打破しようとするものである。 本研究は、以上のように、80年代の中国の改革と経済発展戦略の積極面と残された問題を、特に地域間、中央政府-地方政府関係に焦点をあて、明らかにするとともに、その後の改革、経済発展戦略の可能性についても展望している。
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