従来の理論経済学研究、とりわけミクロ経済理論においては、市場の空間的広がりにおける市場構造の問題は一般に無視され、仮想的な単純化された状況下での価格決定と資源配分の問題が議論されてきた。しかし空間的に分散している市場形態のもとでの競争とそれによる資源配分の問題は、従来のミクロ経済理論のフレ-ムワ-クでは処理し得ないものであり、新たな理論的枠組のもとでの分析が要請されている。本研究は、地域、都市周辺の空間的広がりの中で見いだされる市場構造を、理論分析の中に明示的に導入し、価格と雇用決定の問題を分析してきた。特に地域的不完全競争の発生とそこにおける資源配分の問題が重要視された。 研究期間内において、米国のJournal of Regional Science誌に論文2本、ペンシルベニア大学のWorking Papers in Regional Scienceに論文2本、青山学院大学の紀要に論文2本、その他理論計量経済学会と応用地域経済学会で論文報告を行った。論文の詳細については省略するが、論点の1つは、空間的に異質な構造を有する市場が同時併存しているとき、いかなる相互依存的均衡が形成されるのかという問題であった。この未知の問題に対して世界的に初めて光りをあてたということが、この研究プロジェクトの一番大きな理論的貢献であった。また、都市周辺における価格調整の硬直性についても分析した。価格調整の様態が立地の相違によってなぜ異なるのかという問題は、まだ完全に解明されていない問題であるが、きわめて興味深い問題であろう。また、一般均衡的なモデル分析は、地域的経済政策の効果を考察する上で有益であった。地域的経済政策は、一国全体で実施されるマクロ経済政策と極めて異なった影響をもたらすものであることを明らかにできた点は、実際の経済運営に関連して非常に興味深いものであった。
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