旧型熟練の解体、機器・システムへの吸収過程は、いずれの業種においても程度の違いはあれ進んでいる。昨年度は主として機械加工・組立といった製造業生産ラインにおける技術革新と技能の変遷・再構成過程をみたが、本年度は装置型産業においてもこの過程をフォロ-した。 結論的にいうならば、装置型産業であれ、加工・組立型業種であれ、大勢は同様であり、旧来型技能の自動制御システムへの置き換えは著しく進んでいる。例えば鉄鋼業を例とすれば、製鉄工程のキイをなす高炉操業に、AI(知識工学=人口知能)システムを導入する試みが進んでいる。高炉操業は、これまで、きわめて多様で複雑なデ-タからコントロ-ルのあり方を総合的にしかも迅速に判断することが求められ、従って、十分な知識・経験を有する熟練技能者の存在が決定的であった。AIシステムはこの熟練技能者に代わって、人間の情報判断→アクションの過程をコンピュ-タシステムに置き換えようとするものである。しかし、AIシステムといえ、実際には最も優れた熟練技能者のノウハウを基にしている。即ち、AIシステムの根幹たる「知識ベ-ス」は、実際の高炉状態に関する様々なデ-タと組み合わせつつ熟練技能者の実際の思考・判断プロセスを収集・整理し、それをル-ル化し、これを集積したものである。逆にいえば、熟練の存在がなければ、AIシステムそのものの存在も危ういものたらざるを得ないこととなる。これ以外の諸工程においても、同様の事例がみられ、技術革新による工程の変革は進んでも、とりわけ、異常時の対応に関しては、工程の構造を理解し、諸事象の「ノウホワイ」を熟知している現場熟練工の存在が必要である。新たにこうした工程に配置されてきた若年者に対しても、トラブル発生を想定した技能教育が目的意識的に行われている。
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