当初の計画においては、中国在留日本人およびその家族からの聞き取り調査予定していたが、さまざまな事情によりその計画を変更し、古書店からの当該テ-マ関連資料の購入と、各地の大学・商工会議所の図書館などへの出張による資料文献の探索と複写、整理が、今年度の主たる研究業務となった。この資料収集努力により、遼東新報社『在満二十年記念誌』、東方拓殖協会『支那在留邦人興信録』日本商業通信社『北支蒙彊商工名鑑』、『満州開発十五年誌-付在支邦人事業録-』などの貴重な文献資料の複写・入手が可能となった。収集した資料は、1910〜1930年代の在華日本人営業者の営業経歴および営業科目などを記述したものが多く、あらためて、当該研究テ-マの前史をふくめた時期の中国在留日本人営業者の経歴分析、来満事情研究の重要性を痛感するに至った。収集した資料の整理を学生アルバイトの援助によって8月と10月に行なった。そして1989年(平成元年)10月13日に、仙台市において、「1920年代後半期在華日本人の経歴と来満事情」と題する研究報告を行なうことができた。本報告では、日露戦争後の日本人の対満進出を、(1)戦争付随型進出、(2)「零細商人」型進出、(3)「満州ブ-ム」(4)「支店開設」型進出、(5)親類・友人の招聘、(6)その他、にパタ-ン分類し、他時期との比較を試みたものである。本報告をもとに現在論文を執筆中である。また旧東亜煙草株式会社社員・貝原収蔵の在吉林時代(1909年)日記についても解題を付して、『東京農工大学一般教育部紀要』に投稿した。こうして1905〜1920年代の日本人商工業者の対華進出と営業については実証研究が進展したので、満州事変から日中戦争期(1930年代)の対華商工移民と在華日本人諸企業の動向について、資料収集と実証分析を進めていきたい。
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