本調査においては、海軍艦政本部、海軍技手養成所の関係者からの聴調および資料収集を主な作業課題とし、海軍における技術開発の基本方針と技術思想の変容過程ならびに、工廠内技術職層の育成過程を明らかにすることを研究課題としている。調査を行って予想以上に物故者が増えており、こうしたテ-マによる研究を続けるには最期の機会になっていることを痛感している。第1年度の最大の成果は、技手養成所の社会制度上の特性が甚だ日本的な複雑さに満ちていたことを確認できた点にある。本養成所は官制度は明らかに中間技能職層の育成にある。この限りで兵藤〓氏が風に企業内教育制度として把握し、中等実業学校程度の教育機関だと判断したのは誤っていない。しかしかっての我国中等実業教育機関が必ずしも「職工」の養成機関にとどまらなかった以上に、技手養成所の終了者の社会的軌跡は多様である。彼等の中には判任官待遇で続る者もいる一方、動任官待遇にまで昇っていく人材が生まれてくる。これらに関することは、人材に関する社会的評価のあり方がより長期的であって技手養成所がその一つの通過点として評されていることを示している。結局、日本の教育システムは終了者の社会的軌跡を総合して判断すべきなのであって、ヨ-ロッパ流に学歴が社会的地位と直裁に結びついているものとは判断すべきでないことが明らかにされなければならない。この点で具体的な成果を得たことは大きな前進だったと考えているが、残された課題は多い。あと二年間のフィ-ルド・サ-ベイで一つでも多くの課題の核心に迫っていきたいと考えている。
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