本研究の目的は、尾西地方において、明治末から大正・昭和期にかけて行われた絹綿交織物生産から毛織物生産への転換や力織機の導入などの過程を「鈴鎌毛織株式会社」の1000点をこえる膨大な資料によって分析しようとするものである。 愛知県尾西地方は、江戸時代中期ころからわが国有数の機業地であり、現在でも日本最大の毛織物生産地帯である。「鈴鎌毛織株式会社」は、現在尾西市に所属する起町三条地区に存在する。起町は尾西地域の中でもっとも織物生産のさかんな所であり、鈴木鎌次郎家(後に鈴鎌毛織株式会社となる)は、その尾西地域の中で明治期以来つねに織物生産の先頭に立つ指導的地位にあった。この鈴木家に残されていた膨大な資料を整理し、その目録の作製は終ったが、分析はまだ一部しかすすんでいない。平成2年度までに、力織機の導入過程と労働力の分析がほぼ終ったところである。労働力分析についてみれば、労働者の数と出身地、勤務期間や契約形態、賃金と年令、勤務期間との関係、雇備形態、賃金支払形態(出来高払い賃金・日給月給制・固定給等)などの複雑な内容がほぼ明かになった。これらの点は現在学界でもまだ解明されていない内容であり、本研究の貢献と信じでいる。 この報告以外に、流通分析や経営分析などもすすめているが、まだ緒についたばかりで報告できる段階ではなく、今後の課題である。
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