現在、退職した高齢者の所得保障(年金)は大部分公的年金に依存しているが、今後の本格的な高齢化社会においては私的年金、とくに、個人年金の補完的役割の拡大が期待される。その理由は、(1)高齢者資産形成の階層分化が著しく、公的年金ですべての高齢者の所得保障を行う必要性が薄いこと、(2)事実上賦課方式となっている公的年金に大きく依存することは、世代間の所得移転にともなう厄介な社会的・経済的問題を引き起こすこと、(3)公的年金は所得保障の基礎的部分を、私的年金は付加的部分をそれぞれ役割分担するという方向が、イギリス、アメリカ等の最近の動向をみても望ましいと考えられること、(4)しかし、私的年金のうち企業年金は企業の従業員に対象が限られるうえに、転職、倒産等にともなうリスクのカバ-が難しいこと、等である。 今後、個人年金を中心に私的年金の奨励・育成を図るためには、資産所得および年金に関する税制の改革が不可欠である。基本的には、退職老齢年金については、公的・私的を問わず、拠出控除・給付課税という支出税方式を所得税の例外措置として導入することが望ましい。その点で、アメリカやイギリスと比較すれば、わが国の私的年金税制は一般の資産所得税制よりもむしろ厳しく、私的年金の奨励を逆に阻害している面がある。ただし、私的年金に支出税方式を導入・適用するに当たっては、まず、個人年金に関しては、拠出期間、支給開始年齢、給付水準等の諸条件を退職老齢年金にふさわしい形に設計すること、次に企業年金に関しては継続性の保証に加えて、労務・退職管理の手段としないための公的規則(支給開始年齢、支給期間等)や税制改革(退職一時金優遇措置の縮小)を行うことが必要である。以上のような限定的な税制適格私的年金であるならば、イギリスと同様に、公的付加年金(所得比例年金)からの適用除外を考慮してもよい。
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