本研究の成果は、(1)金融市場における情報の役割についての理論的分析、(2)情報の観点からみた日本の金融制度の特徴についての分析、(3)理論的分析による仮説の実証的検討、(4)日本の金融制度のあり方についての展望と提言、という4つに分けることができる。 (1)従来の議論の検討から、有効な問題解決のためには問題ごとに「情報」の内容を明確に定義する必要があること、金融市場の制度・慣行は情報の非対称による逆選択を回避するための低コスト手段であること、銀行の特徴は、その資産である貸出がキャッシュ・フロ-の不確実性に対処するための低コスト手段であること、担保は情報生産コストを節約低下するための重要かつ有効な手段であること、銀行の情報生産能力は金融政策の有効性にも影響を与えること、等が明らかになった。 (2)有担保原則、金融機関の協調的行動、メインバンク制度、株式持ち合い等、日本の金融市場の様々な特徴は信用秩序維持システムの特徴から派生したものであり、情報化の進展によって消滅の方向にあるものと、そうでないものがあること、等が明らかになった。 (3)情報生産コスト節約手段としての担保、及び情報化の進展に対応した銀行行動の変化に関する実証分析を行い、理論的分析による仮説の妥当性が明瞭に確認された。金融制度が大きく変化しつつある金融構造の実態を跡付ける形で変化している。これらの成果に基づいて、今後の制度変化の方向についての明確な見通しを得ることができた。また、情報化はインフレ情報の伝達スピ-ドという意味では、必ずしも市場における情報利用の効率性上昇という形で作用しているわけではない。 (4)制度変更に関して時間的非整合性問題を避ける考慮が必要であり、日本の金融自由化に関しても、その点に配慮した進め方をすべきであるという観点から具体的提言を行なった。
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