(I)研究目的 1.予算過程に公共選択論を適用する場合の問題点 従来の公共選択論はマクロ分析の手法を用いているので、そこで想定される人間は、いわゆる「経済人」であって経済原則にしたがいつつ、行動するものと前提されてきた。しかし、公共的意思決定過程においては、必ずしも「経済人」を想定する必要はない。社会的評価基準は経済原則以外の基準を是認するからである。 2.情報の伝達に制御の問題を関連させようとすると情報の発信と伝達のシステム、過去の行動の結果のデ-タ・ベ-ス化がいかにして行なわれるかが問題となる。 (II)研究実施計画の結果について 1.私的評価と社会的評価の調整を理論化しようとすると評価基準の設定において社会的公正、社会的正義の内容を解明せざるをえない。例えばロ-ルズ基準を採用したとき、個々人の才能の差異を相互に評価しうるためには、単なる経済人ではなくて、個人相互間の多様な価値を認める「全人」が想定される必要がある。 2.そこで、予算過程にサイバネティクスの原理を応用しようとすれば、経済人としての行動結果を情報として処理し、蓄積し、伝達するシステムを通じて、全人としての投票者が、どのような判断をくだし、また、社会に共通するル-ルを設定するかが重要な意味を持つ。 本年度は、公共的意思決定論において経済人と全人の区別、および相互関係を分析し、提起しえたことが最大の成果であった。このアイデアをさらに発展させれば、私的評価と社会的評価の調整問題もより正確な解決にむけて、さらに進むにちがいない。
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