研究概要 |
本年度においては,昨年度に引きつづいて予算に関する公共的意思決定の過程を学習理論の応用によって解明し, 1.公共的意思決定における投票者の公的欲求の分析 2.公的欲求の充足と市場経済における私的欲求の実現との関係 3.公,私両部門の中間領域におけるクラブ財の機能 4.社会における資源の合理的配分のためのル-ルの内容などについて検討を加えた。 この結果,従来の公共経済学のフレ-ムワ-クが功利主義的な経済人のモデルを使用してきたのに対して,より現実性のある予算過程の研究のためには,より高次の人間の欲求,例えば自己実現やA.センのいう「いきがい」を取り扱う必要がある,との知見を得た。かかる知見は,A.スミス,J.ラスキン,W.モリス,J.M.ケインズらのうちにすでにみられるものである。しかし,彼らの時代には,私的部門と公共部門の相互関係の研究がまだ未発達であったために,公共部門において自己実現を可能にする公共支出の内容を積極的なものとして規定することができなかった。彼らにあっては公共部門は自由競争を可能にする法システムや完全雇用を可能にする予算システムをもちさえすれば,それで充分に人間の欲求を実現しうる市場経済が機能しうる,とみなされたのである。 しかし,現代における社会資本やインフラストラクチャ-の研究は,人間の自己実現とインフラストラクチャ-の相互関係を解明しうるところにまで到達し,法,情報,金融,経済,社会,土地・環境などのインフラストラクチャ-が,人間のいきがいや自己実現を保障する市場システムの整備といかにかかわるか,が次第にあきらかにされてきた。次年度において,このモデルを完成させたい。
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