研究概要 |
はじめに 本研究は政府などの予算過程を納税者と予算策定者の間の一種のコミュニケ-ション・システムとして考察し,理論化を試みたものであって、公共的意思決定における情報の伝達と,それによる予算過程の制御のメカニズムを解明することを目的として,公共的意思決定の從来のモデルを改良して公共支出の社会的評価をモデルに組み入れた理論を確立しようとした。成果はつぎの通りである。 1.從来の公共的意思決定の理論における基本的な枠組みであった「投票者の行動の動機は経済人としての合理的判断にもとづく」とする前提を,公共的な意思決定については経済人をこえる非営利的,公共的動機をも含みうるひろい枠組みに変更し、過去の行動から学習して私益と公益の調整をはかり得る学習人モデルを仮定したこと。 2.予算過程における学習人の行動は、予算の費用ー便益分析に負うところが大きいのであるが,費用一便益関係の社会的評価は,過去の予算の決定にかかわる情報が投票者自身によって,どのように認識されたか,また,認識の基礎となる情報がインフラストラクチャ-によってどのように伝達され蓄積されたかに依存する。この場合,インフラストラクチャ-にゆがみがあれば,適切な社会的評価は困難となるので,インフラストラクチャ-の整備と予算の社会的評価の確立とは密接な相互依存関係にある。 3.過去の予算過程からの学習において,社会的な評価をより確実なものにしようとするとき,人類の過去の知的な資産をいかにして継承するかを社会進化論の検討によって解明し,固有価値とその享受能力という概念を用いて、継承過程の理論化をおこなった。
|