「目的」老化した星の周りや、反射星雲に存在する炭素質の塵は、中心星からの紫外線照射を受け、赤外線を輻射すると考えられている。さらに、最近になり、これらの反射星雲で赤色の蛍光輻射が観測された。このことは、星からの紫外線照射が炭素質の塵の可視・赤外領域の輻射の誘因となっていることを示唆している。 この点から、炭素質の塵の構造の解明は、第一にその赤外輻射スペクトルと類似したスペクトルを示す物質の合成を出発点とし、第二にその輻射機構の解明を行う。 「結果および成果」炭化水素プラズマからの急冷炭素質物質(QCC)を合成し、それを高温で変成させその3μm吸収ピ-クを高分解能測定し、3.295μmと確定した。これは観測値とよく一致した(Ap.J.1990)。 このQCCの赤外輻射スペクトル測定のために、既存のFTIR赤外スペクトロメ-タに輻射測定アタッチメントを装着し、測定条件を確定した。測定は空気中で100〜350℃の範囲で可能である。QCCは真空中で測定する必要があり、現在真空セルを開発中である。 室温で捕集したQCCに紫外線照射を行ったところ、赤色の蛍光がみられた。この蛍光のスペクトルを精密に測定した。スペクトルは、単一のブロ-ドバンドを示した。その極大波長はQCCの捕集基板温度(ー80〜300℃)に依存し、650〜700nmに位置する。これを反射星雲の赤色輻射のスペクトルと対比したところ、低温で捕集したQCCの蛍光スペクトルがよく一致した。 これらの実験から、プラズマからの急冷物質は紫外線照射により、すくなくとも可視光の蛍光を示すことが明らかにできた。このことから、赤外領域でも蛍光類似の発光が期待される。真空セル、高感度赤外検出器の製作により、今後、赤外発光の検出が可能となる。
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