平成元年度は、非一様宇宙の近似法を、ポスト・ニュ-トン近似を拡張することによって開発した。この方法によれば、物質密度のゆらぎが小さい線形領域から、それが大きくなる非線形領域までを統一的に取り扱うことができ、また、ゆらぎの成長による膨張への反作用も計算が可能になった。また、この近似に基づいて、現実的な宇宙での光の伝播を研究し、距離と赤方偏移の一般的関係を導いた。これにより、理論的裏付けのないまま従来しばしば用いられてきたダイヤ-・レ-ダ-距離の正当性を検討することができた。それによると、赤方偏移が1よりも小さい領域では、密度ゆらぎがどんなに大きくても、光の伝播に対しては線形近似が使用でき、ダイヤ-・レ-ダ-距離が、十分よい近似になっていることがわかった。 また、銀河団の分布を単純化した非一様宇宙のモデルを用いて光の伝播を数値的に解き、距離-赤方偏移関係の角度スケ-ル依存性を調べた。その結果、見こむ角度のスケ-ルが十分小さければ、ダイヤ-・レ-ダ-の距離-赤方偏移関係に従う頻度が大きくなり、大きい角度になると標準的な視直径距離-赤方偏移関係式が十分妥当な記述を与えることがわかった。また、小角度スケ-ルでは、平均値からの分散が非常に大きく、重力レンズ効果の影響が支配的になることが示された。 次に、非一様宇宙における重力レンズ理論について調べた。通常用いられているレンズ方程式は、厳密には一様等方宇宙で、光線束の剪断変形がゼロの場合しか成り立たない。そこで、非一様宇宙における重力レンズ効果を議論するために、剪断変形がある場合のレンズ方程式を摂動の1次の項まで求め、通常のレンズ方程式との差異について調べた。具体的な宇宙モデルによる定量的評価については、現在検討中である。
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