研究概要 |
昨年度作成した「回転座標系での殻モデルに基づくRPA」数値計算プログラムに改良を加えながら,高スピン巨大変形状態のうえに形成される八重極振動モ-ドの性質を系統的かつ詳細に分析した。これらの分析の結果,今後の実験的研究に役立つと思われる多くの理論的知見を得た。とりわけ注目されるのは,昨年度得られた量子数K=0をもつ八重極振動モ-ドにつけ加えて,量子数K=1をもつ八重極振動の存在と,それらの集団性が増大するための物理的条件が理論的に明らかになったことである。本年度は,從来より知られていたGdやDy領域につけ加えて,Hg領域の原子核において多くの超変形回転バンドが実験で発見された。しかも,イラスト状態だけでなく,超変形イラスト状態からの粒子ー空孔励起あるいは準粒子励起状態を内部状態とする回転バンドが観測された。私達はこれらの新しい実験デ-タを分析し,Hg領域の超変形回転バンドではGdやDy領域と比較して,対相関(ペアリングによる超伝導性)がはるかに重要な役割を果していること,その結果,K=1型の八重極励起の自由度が解放され,低い振動数の極めて集団性の高い八重極振動モ-ドが形成される可能性が大きいとの結論を得た。このモ-ドが励起した回転バンドに対しては,巨大変形した原子核がバナナ型の振動をしつつ静止座標系に対しては高速回転しているという古典力学的描像が成立する。Hg領域だけでなく,GdーDy領域でも巨大変形での二重閉殻核であるDy152につけ加わる粒子(空孔)数が増大すると対相関が効いてきて類似した現象が期待される。また,oddーA核では準粒子ー振動結合の結果としてコリオリ行列要素のデカップリング因子が大きな影響を受けること,そのために回転スペクトルのパタ-ンが変化する可能性が明らかになりつつある。巨大変形したoddーA核での粒子ー振動結合の微視的モデルによる研究は今後の重要な課題である。
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