研究概要 |
近年における磁性研究のめざましい発展の一つは「スピンのゆらぎ」による統一理論(SCR理論)の発展である。この理論は既に弱い強磁性体MnSi,Ni3Al等の性質を定量的に説明できるところまで達している。現在、弱い反強磁性体について理論計算がなされており、これに見合う実験が待たれている。一方、遍歴電子を含む反強磁性体ではバンド構造を反映した急勾配のスピン波が観測されている等、強磁性体の場合とはかなり異なった様子が報告されている。 我々は、理論と比較できる程度に単純で典型的な弱い反強磁性体の単結晶を作成しSCR理論の検証を目指す。ここでは、FeSbを選び単結晶化を試みている。Sb過剰融液からの作成によって、化学量論的組成に近い単結晶を作成せんとしているが、目下のところFel__ー.27Sb(TNより組成を出した)とまだ化学量論的組成とは隔たりがある状態である。この単結晶について中性子分光実験を行い、急勾配の磁気励起を見出した。 一方、同じく金属反強磁性体Mn3Ptについても、単結晶作成に成功し、中性子分光によってスピン波および常磁性体散乱の実験を行った。Mn3PtはTN=480 Kと高く、また、Mn当りの磁気モ-メントも2.5μBと大きいので、弱い反強磁性の範囲からは少し外れるが、そのスピン波の傾きは分子場の予想より約2倍大きく、また、スピン波の緩和も大きくて、金属反強磁性の特徴を備えている。Mn3Ptで面白い点はその磁気構造にあり、低温では三角スピン構造、高温側でcollinearなスピン構造をとり、各々特徴的なスピン波分散を示す。特に三角スピン構造では、三本の音響モ-ドが出ることを示した。またNeel温度近傍でのスピンダイナミックスよりこの転移が三次元磁気秩序が二次元秩序に移り変わる点であることを見出した。
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