本研究では、スピン-パイエルス転移を引き起こしていると思われる新しい物質に着目し、主としてその磁気的性質を明らかにすることにより、スピン-パイエルス転移現象について理解を深める事を目的として研究を行った。 1.《高純度、良質な錯塩結晶の作成》 新しいスピン-パイエルス類似物質と思われる2種類のシアニン色素-TCNQ系錯塩、及びその他の類似錯塩の良質な結晶の作成を試み、2種類の錯塩については高純度で良質な単結晶を得た。溶媒には、メタノ-ル及びアセトニトクルを使用し、単結晶は溶媒蒸発法により作成した。 2.《スピン帯磁率の温度依存性の測定と解析》 2種類の錯塩結晶のスピン帯磁率の温度依存性をファラデ-法によって詳細に測定し、これらのスピン帯磁率はスピン-パイエルス転移に類似の現象(低温域での帯磁率の急減少)を示すことを見出した。帯磁率が急減し始める温度は10K及び14K近傍であるが、すでに知られているスピン-パイエルス物質に比べて転移温度が明瞭でないなど、その振舞いは少し異なる。購入した小型高真空排気装置は磁気天秤と組合せ、帯磁率の精密測定に役だった。高温域の帯磁率の温度依存性は、一次元磁性体等の理論と比較検討した。 3.《ESRによるスピンダイナミックスの測定》 単結晶のESRを測定し、室温域でシャ-プな1本の吸収が観測されること、そして吸収幅が温度や外部磁場方向に大きく依存するなど低次元磁性体の特徴を示すことを明らかにした。また、帯磁率の急減する温度域でESRスペクトルにも異常があることを明らかにした。
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